着床前診断と着床前スクリーニング

着床前診断とは?

 

 

着床前診断とは、体外受精において受精卵の染色体や遺伝子を検査し、異常がないかどうかを調べる技術です。この診断は特定の遺伝子異常の有無を診断することを目的として行われます。

 

そもそも自然の妊娠では体の中で受精した受精卵のうち出産までにいたる割合はわずか25%〜30%とされています。これは、受精卵の多くが染色体異常を持っている事が原因のひとつです。染色体に異常をもつ受精卵の多くは、着床しても流産、死産してしまいます。

 

着床前診断では、こういった染色体異常の受精卵を調べた上で、胎児として発育できる受精卵を子宮に戻します。つまり、受精卵に染色体異常があるかどうかがわかるので、受精卵を子宮に戻す(胚移植)ときに、流産・死産になる可能性の低い受精卵を選ぶことができます。

 

羊水検査や絨毛染色体検査といった妊娠後に異常の有無を調べる出生前診断と大きく異なります。

 

また、日本産科婦人科学会では認められていませんが、流産率を減らすために、特定の染色体や遺伝子でなくても異常がないかを調べる、「着床前スクリーニング」と呼ばれるスクリーニング検査が存在します。この検査は、流産を減らし着床率を上げる目的で行われます。

 

 

 

 

 

 

着床前診断の条件とは?

 

 

日本においては、今の所、日本産科婦人科学会のガイドライン上、重い遺伝性の病気と染色体異常に起因する反復・習慣流産だけを着床前診断の対象にしています。

 

つまり、医学的に重い遺伝性疾患が子供に遺伝する可能性がある場合、夫婦の染色体異常が要因で流産を繰り返している場合が対象となるようです。

 

参考文献:http://www.jsog.or.jp/ethic/chakushouzen_20150620.html

 

 

 

日本産科婦人科学会で承認されている着床前診断対象と遺伝子型の例

 

 

・X連鎖性劣性遺伝(伴性劣性遺伝)

 

・デュシェンヌ型筋ジストロフィー(欠失型・微小変異型)

 

・副腎白質ジストロフィー(点変異型)

 

・X連鎖性不完全優性(伴性劣性不完全優性)

 

・オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症(点変異型)

 

・常染色体優性遺伝

 

・筋強直性ジストロフィー(反復配列の異常伸長)

 

・ミトコンドリア病

 

・筋リー脳症(ミトコンドリアDNAの点変異型)

 

・均衡型転座保因者の習慣流産

 

 

参考文献:http://www.jsog.or.jp/activity/Syougaikensyu62.html

 

 

 

 

日本産科婦人科学会より着床前診断の実施を容認してもらうためには、まず、習慣流産の原因がご夫婦どちらかの染色体構造異常であることが確定されなければなりません。

 

その後、以下のような流れを経て着床前診断を受けることができます。

 

 

1.「着床前診断が必要」と担当医が判断

 

2.日本人類遺伝学会の認定医によるカウンセリングを受ける

 

3.施設内倫理委員会より承認を得る

 

4.日本産科婦人科学会に申請し、認定を受ける

 

 

 

 

 

 

 

 

着床前スクリーニングとは?

 

 

着床前スクリーニングは、母体年齢や反復流産、体外受精や顕微授精を何度やっても妊娠できない夫婦について、染色体の数的異常がない受精卵を選び出すという方法です。

 

夫婦に特に異常はなくとも、実は受精卵はかなりの割合で、染色体の数の異常が認められます。これは偶然によるものです。

 

そして、流産後の染色体検査の結果から、流産の原因はほとんどは染色体の数の異常(トリソミー、三倍体、45,XOなど)ということがわかりました。

 

つまり、染色体の数の異常がある受精卵は子宮に戻しても、そのほとんどが着床しない、流産してしまうといわれています。

 

体外受精や顕微授精を繰り返すこと、流産を繰り返すことは、夫婦に多くの負担をかけてしまいます。

 

流産の一つの原因である、染色体の数の異常がない受精卵を選んで移植をすることで、むやみに体外受精や顕微授精、そして流産を繰り返すのを避けよう、とするのが、着床前スクリーニングです。

 

日本ではまだ臨床応用が認められておりませんが、欧米では着床前診断よりも数多く行われています。

 

着床前スクリーニングにより流産率を下がることはできますが、妊娠率は高くなりません。

 

採卵数あたりの妊娠率はかえって下がる可能性があります。

 

流産を繰り返されており、二度としたくないという方には、着床前スクリーニングは有用だと考えられます。

 

 

 

 

 

 

 

着床前スクリーニングはどこでやっているのか?

 

 

今のところ着床前スクリーニングについても、どのクリニックでも行っているというわけではありません。

 

あくまでも特別臨床研究の段階で、実施施設を限定して3年間で300症例の医学的効果を検証し有効性を確認してから、さらに倫理問題なとを議論する、という流れのようです。

 

もし希望される場合は、まずは主治医の先生にご相談されると良いと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まとめ

 

 

着床前診断や着床前スクリーニングの最大の目的は、流産を繰り返す方の母体保護が目的であるとしています。

 

妊娠前に遺伝子を調べることは命の選別になるのではないかといった倫理的な観点から、賛否両論ある着床前スクリーニングの実施には慎重な姿勢を見せる日本産婦人科学会が、現在約3年かけて大規模な臨床研究をしています。

 

その結果や、今後のこの検査の動向に注目したいと思います。