子宮内フローラについて
膣や子宮などの女性生殖器にはとても精密な免疫系が構築されています。
性感染症を引き起こすような病原菌の侵入を阻止しながら、精子や胎児、胎盤を受け入れたりしています。
生殖器の粘膜がバリアとなり、生殖ホルモンの指令によって、拒絶や受け入れを行っています。
その時に、生殖器に存在する細菌叢が重要な役割を担っています。
入り口にあたる腟から子宮腟部では、乳酸菌の一種であるラクトバチルスが、エストロゲンの影響で膣の上皮細胞から剥離したグリコーゲンを発酵し、乳酸を産生し、腟内を酸性環境に保つことで雑菌の増殖を抑制しています。
ラクトバチルスが受精卵の着床にとって理想的な環境に調整する働きがあると考えられており、子宮内膜への着床を促進する方向に働くと考えられています。
乳酸の合成し、膣内や子宮内の環境を弱酸性に調整したり、慢性子宮内膜炎にも関連する細菌性膣症(膣の自浄作用の低下により、特定の病原微生物ではない細菌が誘引となる女性器の症状)の発症予防にも関係しています。
正常な女性に膣内ではラクトバチルスがたくさんあります。
もし、雑菌が子宮けい管を通過して子宮に到達すると、不妊の原因となる子宮内膜炎、卵管炎、骨髄腹膜炎が起きる可能性もあります。
特に原因不明の不妊症の方の3割以上が慢性子宮内膜炎で、多くの場合、子宮内の細菌叢が乱れ、ラクトバチルス属の菌が減少しています。
炎症が起こると不育症や着床障害と密接な関係があるリンパ球なども、外敵である細菌を排除するために増加するので、着床障害につながる可能性があり、妊娠率の低下や流産率の増加となっていると考えられます。
また、細菌性腟症の妊婦では、自然流産のリスクが9.91倍、早産のリスクが2.19倍に上がることが報告されています。
参考文献:Fertil Steril 2018; 110: 327
Int Immunophamacol 2010; 6: 694.
Hum Retrod. 2013; 28: 1815
Am J Obstet Gynecol 2003; 189: 139
Leitich H (2003) Bacterial vaginosis as a risk factor for preterm delivery: a meta-analysis.
子宮内フローラの調査結果とは?
2015年、米国ラトガース大学の研究者らは、子宮内に善玉菌が存在することを発見し、善玉菌が着床時の免疫に影響を与える可能性を指摘しました。
その後、2016年、米国スタンフォード大学の研究者らが、体外受精での妊娠成功群と妊娠不成功群で善玉菌の量を調べたところ、妊娠不成功群では善玉菌が少ない傾向にあることを見つけました。
そして、子宮内膜における常在菌の種類と割合から、ラクトバチルス属の菌の割合が90%以上を占める人と、90%に満たない人とで、体外受精の結果を調査しました。
●ラクトバチルス90%未満
妊娠率33.3% 妊娠継続率13.3% 生児獲得率6.7%
●ラクトバチルス90%以上
妊娠率70.6% 妊娠継続率58.8% 生児獲得率58.8%
子宮内常在微生物のほとんどを占めるラクトバチルスが90%未満と非優勢な状態では着床不全のリスクが高まるかもしれないという結果が出ています。
参考文献:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0002937816307827
子宮内フローラ検査とは?
反復性胚着床障害(良好な胚を3回以上移植しても妊娠に至らない)の方が対象であることが多く、宮体癌検査用の細胞採取器具を用いて子宮内膜液を採取します。
結果が出るまでに2~3週間ほどを要します。
検査費用は約3~6万円です。
ラクトバチルス90%以上であれば問題なしであり、ラクトバチルス90%未満であると治療が必要となります。
治療としては、悪玉菌を殺すための抗生剤を処方されたり、ラクトフェリンのサプリ(哺乳類の乳汁中に含まれる多機能性のタンパク質で、善玉菌の増殖促進作用を有するといわれている)を処方されるケースが多いようです。
まとめ
原因不明の不妊の方、反復する原因不明の着床不全・流産・化学的妊娠の方、早産の既往がある方など、ひょっとしたらその原因は子宮の中にあるかもしれません。
反復性胚着床障害のある方は、ご参考にしてみてください。
そして、正確な情報については必ず病院に確認してください。